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2018.06.02 一般民事事件

通勤手当など非正規社員と正社員との待遇差を不合理とした最高裁平成30年6月1日判決

1 平成30年6月1日に、最高裁は、有期雇用社員や定年後再雇用の嘱託社員が同じ仕事内容であるにもかかわらず、賃金や手当で格差があるのは違法として是正を求めていた裁判で、再雇用後の賃下げについては、長期雇用などを予定していないことなどを理由に不合理な格差と認めず、通勤手当、皆勤手当について支給しないのは不合理な格差を禁じた労働契約法20条に違反するとする判決を出しました。同上に基づく格差是正を求める裁判で、最高裁が判断を示したのは初めてですので、ご紹介いたします。

 

2 判旨では以下のように述べて再雇用後の賃下げについては、労働契約法20条に違反しない旨判示しています。

「労働契約法20条は,有期労働契約を締結している労働者(以下「有期契約労働者」という。)の労働条件が,期間の定めがあることにより同一の使用者と無期労働契約を締結している労働者の労働条件と相違する場合においては,当該労働条件の相違は,労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。),当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して,不合理と認められるものであってはならない旨を定めている。同条は,有期契約労働者については,無期労働契約を締結している労働者(以下「無期契約労働者」という。)と比較して合理的な労働条件の決定が行われにくく,両者の労働条件の格差が問題となっていたこと等を踏まえ,有期契約労働者の公正な処遇を図る
ため,その労働条件につき,期間の定めがあることにより不合理なものとすることを禁止したものである。
そして,同条は,有期契約労働者と無期契約労働者との間で労働条件に相違があり得ることを前提に,職務の内容,当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情(以下「職務の内容等」という。)を考慮して,その相違が不合理と認められるものであってはならないとするものであり,職務の内容等の違いに応じた均衡のとれた処遇を求める規定であると解される。
(2) 本件確認請求及び本件差額賃金請求について
ア 本件確認請求及び本件差額賃金請求は,有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が労働契約法20条に違反する場合,当該有期契約労働者の労働条件が比較の対象である無期契約労働者の労働条件と同一のものとなるという解釈を前提とするものである。
イ 労働契約法20条が有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違は「不合理と認められるものであってはならない」と規定していることや,その趣旨が有期契約労働者の公正な処遇を図ることにあること等に照らせば,同条の規定は私法上の効力を有するものと解するのが相当であり,有期労働契約のうち同条に違反する労働条件の相違を設ける部分は無効となるものと解される。
もっとも,同条は,有期契約労働者について無期契約労働者との職務の内容等の違いに応じた均衡のとれた処遇を求める規定であり,文言上も,両者の労働条件の相違が同条に違反する場合に,当該有期契約労働者の労働条件が比較の対象である無期契約労働者の労働条件と同一のものとなる旨を定めていない。
そうすると,有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が同条に違反する場合であっても,同条の効力により当該有期契約労働者の労働条件が比較の対象である無期契約労働者の労働条件と同一のものとなるものではないと解するのが相当である。
また,上告人においては,正社員に適用される就業規則である本件正社員就業規則及び本件正社員給与規程と,契約社員に適用される就業規則である本件契約社員就業規則とが,別個独立のものとして作成されていること等にも鑑みれば,両者の労働条件の相違が同条に違反する場合に,本件正社員就業規則又は本件正社員給与規程の定めが契約社員である被上告人に適用されることとなると解することは,就業規則の合理的な解釈としても困難である。
ウ 以上によれば,仮に本件賃金等に係る相違が労働契約法20条に違反するとしても,被上告人の本件賃金等に係る労働条件が正社員の労働条件と同一のものとなるものではないから,被上告人が,本件賃金等に関し,正社員と同一の権利を有する地位にあることの確認を求める本件確認請求は理由がなく,また,同一の権利を有する地位にあることを前提とする本件差額賃金請求も理由がない。
(3) 本件損害賠償請求について
ア 労働契約法20条は,有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件が期間の定めがあることにより相違していることを前提としているから,両者の労働条件が相違しているというだけで同条を適用することはできない。一方,期間の定めがあることと労働条件が相違していることとの関連性の程度は,労働条件の相違が不合理と認められるものに当たるか否かの判断に当たって考慮すれば足りるものということができる。
そうすると,同条にいう「期間の定めがあることにより」とは,有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであることをいうものと解するのが相当である。
これを本件についてみると,本件諸手当に係る労働条件の相違は,契約社員と正社員とでそれぞれ異なる就業規則が適用されることにより生じているものであることに鑑みれば,当該相違は期間の定めの有無に関連して生じたものであるということができる。したがって,契約社員と正社員の本件諸手当に係る労働条件は,同条にいう期間の定めがあることにより相違している場合に当たるということができる。」

 

3.そして、住居手当については不合理とは認めなかった一方、皆勤手当などについては、次のとおり判示して、不合理な格差にあたると判断しました。

「同条にいう「不合理と認められるもの」とは,有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理であると評価することができるものであることをいうと解するのが相当である。 」

「(ア) 本件では,契約社員である被上告人の労働条件と,被上告人と同じく上告人の彦根支店においてトラック運転手(乗務員)として勤務している正社員の労働条件との相違が労働契約法20条に違反するか否かが争われているところ,前記第1の2(6)の事実関係等に照らせば,両者の職務の内容に違いはないが,職務の内容及び配置の変更の範囲に関しては,正社員は,出向を含む全国規模の広域異動の可能性があるほか,等級役職制度が設けられており,職務遂行能力に見合う等級役職への格付けを通じて,将来,上告人の中核を担う人材として登用される可能性があるのに対し,契約社員は,就業場所の変更や出向は予定されておらず,将来,そのような人材として登用されることも予定されていないという違いがあるということができる。
(イ) 上告人においては,正社員に対してのみ所定の住宅手当を支給することとされている。この住宅手当は,従業員の住宅に要する費用を補助する趣旨で支給されるものと解されるところ,契約社員については就業場所の変更が予定されていないのに対し,正社員については,転居を伴う配転が予定されているため,契約社員と比較して住宅に要する費用が多額となり得る。
したがって,正社員に対して上記の住宅手当を支給する一方で,契約社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は,不合理であると評価することができるものとはいえないから,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらないと解するのが相当である。
(ウ) 上告人においては,正社員である乗務員に対してのみ,所定の皆勤手当を支給することとされている。この皆勤手当は,上告人が運送業務を円滑に進めるには実際に出勤するトラック運転手を一定数確保する必要があることから,皆勤を奨励する趣旨で支給されるものであると解されるところ,上告人の乗務員については,契約社員と正社員の職務の内容は異ならないから,出勤する者を確保することの必要性については,職務の内容によって両者の間に差異が生ずるものではない。
また,上記の必要性は,当該労働者が将来転勤や出向をする可能性や,上告人の中核を担う人材として登用される可能性の有無といった事情により異なるとはいえない。そして,本件労働契約及び本件契約社員就業規則によれば,契約社員については,上告人の業績と本人の勤務成績を考慮して昇給することがあるとされているが,昇給しないことが原則である上,皆勤の事実を考慮して昇給が行われたとの事情もうかがわれない。
したがって,上告人の乗務員のうち正社員に対して上記の皆勤手当を支給する一方で,契約社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は,不合理であると評価することができるものであるから,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。 」

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